森谷明子『涼子点景1964』(双葉社)レビュー


涼子点景1964

涼子点景1964

  • 作者:森谷 明子
  • 発売日: 2020/01/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 ヒロインが一種の道化役となるような短編連作かと思いきや、物語の構成にギミックを仕掛けるというのでなく、当時の階級社会の齟齬と蹉跌を、真正面から描きたかったのだなあ、と。ヒロインのマクシムに当たる部分をミステリーで覆って、読者をけん引する濃やかな筆致には、安心感を覚えざるを得ない。にしても当時は感染症流行らんで、ほんとうによかったな。