名作なんてかわいくない

 
 いやあ、柚木麻子のこの批評集(断じてブックガイドなんかではない)面白かったわあ。自分の日常的出来事における披歴を導入とするのは群ようこっぽい仕草だけれども、そこから仏日英米の古典的名作の本質に直球で迫る手腕、一見すると我の関心事にしか筆が及んでないようで、実はコアエッセンスを淀みなく抽出する手つきは大したもの。ていうか、メルヴィルの『白鯨』をまっとうに批評できた文章って、これが初めてなんじゃないの? 巷にあふれる『白鯨』の解説批評文って、ぜんぜんオモロくないでしょ。みんな読み違えているんですよ。