町屋良平『1R1分34秒』(新潮社)レビュー


第160回芥川賞受賞 1R1分34秒

第160回芥川賞受賞 1R1分34秒


 なんかボクシングのお話なのに、売れない演劇青年の独白を読んでるみたいだったよ。でも身体レベルでの逼塞感が、じわじわ伝わってくるし、卑小な自分を中心に世界を回そうとする主人公のあがきが、小説の吸引力になってるのが魅力的だ。

島本理生『ファーストラヴ』(文藝春秋)レビュー


ファーストラヴ

ファーストラヴ


 若くして取り立てられた感のある作者だけれども、直木賞受賞するまでは例によって散々焦らされた。受賞作である本作は、確かに作者が新境地を示した手応えを感じさせ、納得のいく処遇。性的なるものと暴力的なるものの交錯する現場、その身体性の抑圧からの解放に、うまくカタルシスを合わせている。

ビートたけし『フランス座』(文藝春秋)レビュー


フランス座

フランス座


 デビュー以前のころを描く自伝的小説。まあ、たけしの抱くニヒリズムのかたちがほんのり見える。思うに、“父”の役割を代行した感のある母の抑圧から逃れるため、抑圧する能力のない“父”、空虚な“父”を追い求めて、浅草演芸界に身を沈めたのではないか、と。だから、彼の抱くニヒリズムは、“父”の不在による家族的関係性の不可能性を本質とするものではないか、と思う。

 

似鳥 鶏『育休刑事』(幻冬舎)レビュー


育休刑事

育休刑事


 相変わらず饒舌な文体なので、作品が新境地なのかどうかはちょいわからんです。意欲的な設定であることは確か。イクメンのディテールに凝るのは仕方ないとしても、各編の分量はもうちょいタイトだったらよかった。にしてもTV化捨ててるのかね。

 

柄刀一『或るエジプト十字架の謎』(光文社)レビュー


或るエジプト十字架の謎

或るエジプト十字架の謎


 お懐かしや南美希風シリーズ。正統派本格ミステリの醍醐味を味わえるが、クイーンの国名シリーズのタイトルしばりというコンセプトで、個々の話の内容がするすると思い出せるのが、よいよい。エリザベスちゃんが狂言回しにすらなれず、持て余し気味だったのが難。

三津田信三『白魔の塔』(文藝春秋)レビュー


白魔の塔

白魔の塔


 作者の語り口にするすると引き込まれる。怪談の語り部としてもはや揺るがない地位にあると思うが、虚仮威しではない平明な叙述で、そこに探偵小説的解釈をいれる余地を残しながらも、不気味さを醸し出し戦慄を呼び起こす小説空間の構築性は、ホラーの定石的な構築性と比べると、不思議な印象をもたらす。ミステリーとホラーの融合というか境界線の攪乱を志向してきた作者の到達した境地がここにある、という手応え。
 

松嶋智左『貌のない貌 梓凪子の捜査報告書 』(講談社)レビュー


貌のない貌 梓凪子の捜査報告書

貌のない貌 梓凪子の捜査報告書


  福ミス受賞後第一作で、主人公の前職の警察官時代を描く。新米刑事の奮闘をストレートに描いているので、受賞作よりもアクの強さは抑え気味だが、事態の輻輳のさせ方は堂に入ったもので、現代社会の酷薄な暗部が露出するまで、飽かさせない。大風呂敷を拡げるようで中盤でさっと折りたたんだような人を喰ったような展開は、個人的にマルですな。