2007-08-01から1ヶ月間の記事一覧

“探偵”の転回について

内田樹の近著『私家版・ユダヤ文化論』のあとがきで、内田が講義のときにツカミに以下の台詞を言ったという。「キャロル・キングとリーバー&ストーラー抜きのアメリカン・ポップスが想像できないように、マルクスとフロイトとフッサールとレヴィナスとレヴ…

日本推理作家協会編『推理小説年鑑 ザ・ベストミステリーズ2007』(講談社)レビュー

ザ・ベストミステリーズ2007 (推理小説年鑑)作者: 日本推理作家協会出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/07/13メディア: 単行本 クリック: 6回この商品を含むブログ (11件) を見る いくぜ。「罪つくり」期待通りの、絶品。”名探偵”小説としてのタメっぷりが…

大村友貴美『首挽村の殺人』(角川書店)レビュー

首挽村の殺人作者: 大村友貴美出版社/メーカー: 角川書店発売日: 2007/07メディア: 単行本 クリック: 9回この商品を含むブログ (22件) を見る ミステリアス8 アクロバット7 サスペンス8 アレゴリカル7 インプレッション8 トータル38 選評ではやや辛い…

宮部みゆき『楽園 上・下』(文藝春秋)レビュー

楽園〈上〉作者: 宮部みゆき出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2007/08メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 35回この商品を含むブログ (192件) を見る楽園 下作者: 宮部みゆき出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2007/08メディア: 単行本購入: 2人 クリック:…

加納朋子『ぐるぐる猿と歌う鳥』(講談社)レビュー

ぐるぐる猿と歌う鳥 (ミステリーランド)作者: 加納朋子出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/07/26メディア: 単行本 クリック: 9回この商品を含むブログ (58件) を見る ミステリアス8 アクロバット8 サスペンス7 アレゴリカル8 インプレッション8 トー…

北川歩実『長く冷たい眠り』(徳間書店)レビュー

本日のエピグラフ 「冷凍睡眠。人体を凍らせて未来の医療に託すんですよ」(「氷の籠」P16より) [rakuten:book:12060892:detail] ミステリアス8 アクロバット8 サスペンス8 アレゴリカル9 インプレッション8 トータル41 「冷凍睡眠」をフィーチャー…

恩田陸『木漏れ日に泳ぐ魚』(中央公論新社)レビュー

本日のエピグラフ ふと、彼に発した疑問が自分に跳ね返ってくるのを感じた。/あなた、誰かを愛したことがある?(P238より) 木洩れ日に泳ぐ魚作者: 恩田陸出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2007/07メディア: 単行本 クリック: 24回この商品を含むブ…

講談社BOX & Amazon.co.jp共同企画『島田荘司 very BEST10』読者投票 に投票をしました

ということで、今までの短編を読み返してたわけなんですが、げに疎ましきは中間発表ですな。こういうのは、ありがたメイワクというところがありまして、ラインナップを考える気力が萎えちゃう。ひとつは、当選圏内と思しき10位以内の作品が、みな御手洗も…

高山聖史『当確への布石』(宝島社)レビュー

当確への布石作者: 高山聖史出版社/メーカー: 宝島社発売日: 2007/06/01メディア: 単行本 クリック: 1回この商品を含むブログ (8件) を見る 先行する選挙小説に比べるとエグかったりハデではないけれど、人物造型の確かさが好感を呼ぶ佳作。今年のこのミス大…

鳥飼否宇『異界』(角川書店)レビュー

異界作者: 鳥飼否宇出版社/メーカー: 角川書店発売日: 2007/07メディア: 単行本 クリック: 9回この商品を含むブログ (21件) を見る ミステリアス8 アクロバット8 サスペンス7 アレゴリカル7 インプレッション8 トータル38 南方熊楠のキャラクターを日…

諏訪哲史『アサッテの人』(講談社)レビュー

アサッテの人作者: 諏訪哲史出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/07/21メディア: 単行本購入: 5人 クリック: 56回この商品を含むブログ (123件) を見る シニフィアンの連鎖からの「逸脱」が、の実存的基底を確保するのを保障するか、という問いの真摯さと、…

折原一『疑惑』(文藝春秋)レビュー

疑惑作者: 折原一出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2007/06メディア: 単行本 クリック: 3回この商品を含むブログ (11件) を見る ミステリアス8 アクロバット8 サスペンス7 アレゴリカル7 インプレッション8 トータル38 作者の作風って、だんだんハイ…

萱野稔人『権力のよみかた』(青土社)レビュー

権力の読みかた―状況と理論作者: 萱野稔人出版社/メーカー: 青土社発売日: 2007/07/01メディア: 単行本購入: 5人 クリック: 104回この商品を含むブログ (59件) を見る ベネディクト・アンダーソン『想像の共同体』の副題は「ナショナリズムの起源と流行」だ…

菊池英博『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』(ダイヤモンド社)レビュー

実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠―このままでは日本の経済システムが崩壊する作者: 菊池英博出版社/メーカー: ダイヤモンド社発売日: 2007/06/15メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 15回この商品を含むブログ (6件) を見る が“正義”とみなされるのは、…

井上雅彦『遠い遠い街角』(東京創元社)レビュー

[rakuten:book:12083184:detail] 変格探偵小説で描く懐旧の昭和風俗史。連作短編集の醍醐味を満喫させるということでは、北森鴻『共犯マジック』を思い出すけれども、奇譚をベースに“稗史”的な原風景を現前させている。

西澤保彦『収穫祭』(幻冬舎)レビュー

本日のエピグラフ 自分が蒔いた種が芽吹き、そして育ってゆく実感にひたりながら。着実に収穫のときが迫ってきている、その悦楽にうち震えながら。(P604より) 収穫祭作者: 西澤保彦出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2007/07/01メディア: 単行本 クリック:…

早見裕司『満ち潮の夜、彼女は』(理論社)レビュー

[rakuten:book:12081166:detail] 大胆不敵なミスディレクション? ある種の“永遠”の神秘性を演出するのに、かなりの大仕掛けを目論んだ。って、これもセカイのひとつの方向性、ということかも。

芦原すなお『カワセミの森で』(理論社)レビュー

カワセミの森で (ミステリーYA!)作者: 芦原すなお出版社/メーカー: 理論社発売日: 2007/05メディア: 単行本 クリック: 7回この商品を含むブログ (20件) を見る ミステリアス8 アクロバット7 サスペンス7 アレゴリカル7 インプレッション7 トータル36 …

大沢在昌『影絵の騎士』(集英社)レビュー

[rakuten:book:12061471:detail] いま、ハードボイルド、PI小説のフィールドで、一番持ち重りのある“小説”を書けるひと――って、90年代からずっとだけれども。でも、PI小説の定型を、単なるガジェットとして終わらせないための手練手管の試行錯誤、とで…

中山智幸『さりぎわの歩き方』(文藝春秋)レビュー 

さりぎわの歩き方作者: 中山智幸出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2007/06メディア: 単行本 クリック: 1回この商品を含むブログ (10件) を見る 表題作は、青春葬送曲。ある“時代”を終わらせるのに必要な格率を求める話。「長い名前」は、いまどき、まっとう…

盛山和夫『年金問題の正しい考え方』(中公新書)レビュー

年金問題の正しい考え方―福祉国家は持続可能か (中公新書)作者: 盛山和夫出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2007/06メディア: 新書購入: 1人 クリック: 38回この商品を含むブログ (31件) を見る 年金問題、とくれば岩瀬達哉がこの国の年金役人たちのモラ…

浅羽通明『天皇・反戦・日本』(幻冬舎)レビュー

天皇・反戦・日本―浅羽通明同時代論集 治国平天下篇作者: 浅羽通明出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2007/06/01メディア: 単行本購入: 5人 クリック: 53回この商品を含むブログ (38件) を見る 著者のニューズレターの読者ではないけれど、在りし日の『宝島3…

中村文則『最後の命』(講談社)レビュー

最後の命作者: 中村文則出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/06/12メディア: 単行本 クリック: 5回この商品を含むブログ (15件) を見る 性的なるものが、実存の基底を構成するオーソドックスな手法を深化させるのに、作者はふたつのバイアスを用意した。そ…

福田栄一『エンド・クレジットに最適な夏』(東京創元社)レビュー

エンド・クレジットに最適な夏 (ミステリ・フロンティア)作者: 福田栄一出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2007/05メディア: 単行本 クリック: 9回この商品を含むブログ (46件) を見る 小説が上手い、プロット展開も意表をついておもしろい、問題はPI小…

藤原帰一『戦争解禁』(ロッキング・オン)レビュー

本日のエピグラフ 日本では「アメリカの狙いは石油とイスラエルだ」って言うと、誰もが納得するんですけど、「本気で民主化なんだ」って言うと、そんなバカなことを信じる人間が世界にいるのかって顔をされる。(P228より) 戦争解禁―アメリカは何故、いら…

芦辺拓『迷宮パノラマ館』(実業之日本社)レビュー

迷宮パノラマ館作者: 芦辺拓出版社/メーカー: 実業之日本社発売日: 2007/05/30メディア: 単行本 クリック: 5回この商品を含むブログ (8件) を見る 後にいくにつれて、だんだん“語=騙り”がラディカルになっていくのがいい。博覧強記の側面がナラティブのダイ…

東野圭吾『夜明けの街で』(角川書店)

夜明けの街で作者: 東野圭吾出版社/メーカー: 角川書店発売日: 2007/07メディア: 単行本 クリック: 75回この商品を含むブログ (178件) を見る もっと、村上春樹をパロってもいいのに。でも、まさしく“不倫”をめぐる物語で、性愛を“原罪”と安易に結びつけるス…

福永信『コップとコッペパンとペン』(河出書房新社)レビュー

コップとコッペパンとペン作者: 福永信出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2007/04/01メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 29回この商品を含むブログ (47件) を見る Z文学賞受賞作。それと信じられている、通俗的な“物語”の諸々が、交通事故的に繋ぎ合…