2008-05-01から1ヶ月間の記事一覧

それで“自由”になったのかい?

稲葉振一郎の『「公共性」論』を読んでいて、私が強く想起したのは、加藤典洋の『敗戦後論』と、それに続く、同じく「公共性」をめぐる論考である『戦後的思考』『日本の無思想』である。「敗戦後論」論争から、すでに十余年の歳月が流れているが、当時加藤…

鯨統一郎『ニライカナイの語り部』(中央公論新社)レビュー

ニライカナイの語り部―作家六波羅一輝の推理 (C・NOVELS)作者: 鯨統一郎出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2008/01メディア: 新書 クリック: 5回この商品を含むブログ (8件) を見る ミステリアス7 アクロバット7 サスペンス7 アレゴリカル7 インプレ…

佐藤正英『小林秀雄――近代日本の発見』(講談社)レビュー

小林秀雄 近代日本の発見 (再発見 日本の哲学)作者: 佐藤正英出版社/メーカー: 講談社発売日: 2008/03/26メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 1人 クリック: 1回この商品を含むブログ (5件) を見る わが国における文芸批評の代名詞的存在を、「近代日本」…

篠田節子『 Χωρα ―死都― 』(文藝春秋)レビュー

[rakuten:book:12843046:detail] 宗教をめぐる議論から、超自然的世界が開示される展開は、さすがに危なげないもの。さらに、“音楽”という要素もからまれば、もう作者の独壇場である。生と死の二項対立的図式にあてはめたのは、やや予定調和のきらいはあるけ…

推協賞酔狂問答

第61回日本推理作家協会賞の記事が、双葉社のウェブサイトにアップされていました、が…………長編・連短部門の選考委員の名前見て、思わず失笑。これじゃあ、三津田さんも柄刀さんも、かわいそすぎる。いったい、どういったリクツで落とされたか、もーあからさ…

早瀬乱『サトシ・マイナス』(東京創元社)レビュー

[rakuten:book:12855929:detail] スラップスティックな自己探求譚。ラストに至るまで、オフビートっぷりは緩まないけれども、こういうかたちでなければ、成長小説は説得性を得ることはできないのが、現在なのかも。短期間に作風を変えたものを物する作者の姿…

愛川晶『芝浜謎噺』(原書房)レビュー

本日のエピグラフ 二人の名人は、夜明けの芝の浜で、一体、何を見たというのだろうか? (「芝浜謎噺」P198より) 芝浜謎噺―神田紅梅亭寄席物帳 (ミステリー・リーグ)作者: 愛川晶,さくらみゆき出版社/メーカー: 原書房発売日: 2008/04/21メディア: 単行本…

三津田信三『山魔の如き嗤うもの』(原書房)レビュー

本日のエピグラフ 「あのー、最初にお断りしておきたいのですが――。僕は、自分が辿った思考過程通りに喋るという癖がありまして……。よって回り諄いところが――」(P360より) 山魔の如き嗤うもの (ミステリー・リーグ)作者: 三津田信三,村田修出版社/メーカ…

「終わり」の時代の終わり

おそらくは今年の話題作になるだろう、大澤真幸の『不可能性の時代』は、見田宗介のパースペクティブを下敷きにした、“戦後”の精神史区分「理想」(=1945〜70)「虚構」(=1970〜95)の“時代”のあとに来るものとして、「不可能性」なるものを措定して、その時…

荻原浩『愛しの座敷わらし』(朝日新聞社)レビュー

愛しの座敷わらし作者: 荻原浩出版社/メーカー: 朝日新聞出版発売日: 2008/04/04メディア: 単行本 クリック: 26回この商品を含むブログ (44件) を見る もう、ほんとに、不意打ちっすよ。最後の一行で、思わず涙腺が緩んだっていうの。別に泣ける小説と踏んで…

篠田真由美『美しきもの見し人は』(光文社カッパノベルス)レビュー

美しきもの見し人は (カッパ・ノベルス)作者: 篠田真由美出版社/メーカー: 光文社発売日: 2008/03/20メディア: 新書 クリック: 1回この商品を含むブログ (13件) を見る 前作より、「ゴシックロマンス」としての結構は勝っているように思う。キリスト的なるも…

津原泰水『ルピナス探偵団の憂愁』(東京創元社)レビュー

ルピナス探偵団の憂愁 (創元クライム・クラブ)作者: 津原泰水出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2007/12メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 27回この商品を含むブログ (51件) を見る ミステリアス8 アクロバット8 サスペンス6 アレゴリカル8 インプ…

ジェイムズ・パウエル『道化の町』(河出書房新社)レビュー

道化の町 (KAWADE MYSTERY)作者: ジェイムズパウエル,森英俊,James Powell,白須清美,宮脇孝雄出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2008/03メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 10回この商品を含むブログ (14件) を見る 翻訳ミステリは老後の愉しみに取っ…

高田崇史『毒草師 白蛇の洗礼』(朝日新聞社)レビュー

毒草師 白蛇の洗礼作者: 高田崇史出版社/メーカー: 朝日新聞出版発売日: 2008/04/04メディア: 単行本 クリック: 6回この商品を含むブログ (17件) を見る ミステリアス8 アクロバット8 サスペンス7 アレゴリカル8 インプレッション8 トータル39 あはっ…

鈴木淑夫『円と日本経済の実力』(岩波ブックレット)レビュー

円と日本経済の実力 (岩波ブックレット) [ 鈴木淑夫 ]ジャンル: 本・雑誌・コミック > ビジネス・経済・就職 > 経済・財政 > 日本経済ショップ: 楽天ブックス価格: 518円 小沢旧自由党のもとで衆議院議員を務めて、再びエコノミストに復帰した著者の新刊。…

海堂尊『ジーン・ワルツ』(新潮社)レビュー

ジーン・ワルツ作者: 海堂尊出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2008/03メディア: 単行本購入: 4人 クリック: 70回この商品を含むブログ (147件) を見る 医療における“技術”が構成する混乱と、“政治”が生み出す現場の混迷。動乱の時代には、共同体が求められる…

荒岱介『新左翼とは何だったのか』(幻冬舎)レビュー

新左翼とは何だったのか (幻冬舎新書)作者: 荒岱介出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2008/01メディア: 新書 クリック: 77回この商品を含むブログ (30件) を見る 何というか、“戦後”の歴史が見えにくい、そのように感じる一端は、“左翼”運動とは何だったのか、…

三崎亜記『鼓笛隊の襲来』(光文社)レビュー

鼓笛隊の襲来作者: 三崎亜記出版社/メーカー: 光文社発売日: 2008/03/20メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 27回この商品を含むブログ (93件) を見る 私は「覆面社員」と「遠距離・恋愛」がイチオシ。作者は、不条理世界をシニシズムから救う経路を模索し…

朝倉かすみ『田村はまだか』(光文社)レビュー

田村はまだか作者: 朝倉かすみ出版社/メーカー: 光文社発売日: 2008/02/21メディア: ハードカバー購入: 2人 クリック: 143回この商品を含むブログ (104件) を見る 「田村を待ちながら」ではなく、「田村はまだか」。登場人物たちは、“過去”がいったいどんな…