近藤史恵『にわか大根 猿若町捕物帳』(光文社)レビュー

本日のエピグラフ

 すべてが嘘で、作り事。遊女の手練手管ということは知っている。/それでも、少し胸が熱いような気持ちになるのはどうしてだろう。(P80より)

にわか大根 猿若町捕物帳

にわか大根 猿若町捕物帳



ミステリアス
クロバット
サスペンス
アレゴリカル
インプレッション10
トータル40
 いやはや小説の上手いこと。千蔭、巴之丞、梅が枝はもとより、各々の事件の端役にいたるまで、すべての人物が、文章から立ち上がってくる。そのせいか、視点人物の八十吉が霞んでしまうほどだけれども、もしかしたらこれは作者の企図のうちかも。とりわけ、千蔭の歳の十五も下の母、お駒の造型が、全然鼻につかないのはさすが。物語は、吉原と三座絡みの怪事件を横糸に、そしてお駒の親戚の商家の椿事を縦糸にして、捕物帳の結構を満足させる大団円へ。お駒ちゃんに愛のエプロンを。