中島岳志 西部邁『パール判決を問い直す』(講談社現代新書)レビュー



 小林よしのり中島岳志『パール判事』批判をきっかけに、いま保守論壇内で、パール判決論争が沸き起こっているのは興味深い。論争の要諦は、パールの「A級戦犯」無罪論を、「日本無罪論」に読み替えることができるか否か、である。中島の同書を資料の扱いなどの点で難じた東京裁判研究の第一人者の牛村圭も、安易な「日本無罪論」とは一線を画しているが、本書は西部邁が中島を誘うかたちでなされた対談で、中島のまとまったかたちでの反論でもある。内容は実際に読まれたいが、「日本無罪論」者たちのパールに対する思い入れの様々な交錯が、裁定されているのは、間違いないだろう。パール判決書の“政治”性とパール自身の思想性、さらにそれらを政治的資源として、我が国の“保守”が扱える代物なのか、鋭く問われる。