連城三紀彦『造花の蜜』(角川春樹事務所)レビュー

本日のエピグラフ

 「まだ有名じゃないけど、前に一度、意外なドンデン返しで二着に入ったことがある。いつもドラマチックに面白く見せてくれる私のお気に入り」(P298より)

造花の蜜

造花の蜜


 
ミステリアス
クロバット10
サスペンス10
アレゴリカル
インプレッション10
トータル48


 冒頭で繰り出される“謎”のひとつに、作者の原点回帰を見ましたよ(わかる人には、わかる)。存分に、思わせぶり、すかしっぷりを味わわせてくれる前半、そして、物語のトーンを変えて巨大な反転劇を仕掛ける後半。賛否両論あるだろう最終章は、家族の暗部を甘い蜜として集ってきた「蜂」どもが去ったあと、その「蜂」たちが「造花」に残した花粉によって、「造花」が本物の花の種子を宿すかのような、そのようなささやかな希望をそっと添えることが、作者にとって、このシュールな悲喜劇の幕を下ろすのに、必然だったのだろう。