石持浅海『この国。』(原書房)レビュー

本日のエピグラフ

 この国のどこが不満だ?/(…)これほど成功した国は、他にない。それなのに、なぜ体制を覆そうとする? 一党独裁の、何が悪いのか。(「エクスプレッシング・ゲーム」P292より)

この国。 (ミステリー・リーグ)

この国。 (ミステリー・リーグ)



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インプレッション
トータル40


 一党独裁というよりも、開発独裁体制が官僚機構によって延命したような国家の悲喜劇が主題。連作短編で、平和なファシズム(≒コーポラティズム)の外部を垣間見せようとするが、パラレル・ワールド設定による現代社会風刺が成功したかどうかは疑問。モデルとした国家の言語で読まされるのは、異化効果が減じてしまうのではないか。「ドロッピング・ゲーム」では外国人教師が語り部だけれども、いっそ外国人ジャーナリストとかの認めた見聞記の翻訳といった体裁がよかったかも。