2011年上半期本格ミステリベスト5

 2010年11月〜2011年4月までの本格ミステリは、上半期としては、久々に充実してました。個人的には、『謎ディナ』のミリオンセラーのあとで、どれだけのものを生み出せるか、本格作家の踏ん張りを期待したいです。


システィーナ・スカル

システィーナ・スカル



第1位:柄刀一『システィーナ・スカル』
改めて、この作者の知的好奇心の貪欲さには驚くばかりだ。ここまで熟練の腕を魅せつけておきながら、ミステリーの小説家として、まだ極まった感じがしない。外界の事象から、汲み出すものが多過ぎるのだろうか。


折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)

折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)



第2位:米澤穂信『折れた竜骨』
 おめでとうございます。ヒロイック・ファンタジーの物語空間に、探偵小説的大伽藍をいかに構築できるか。しなやかな強度と強かな計算を愉しみたい。


もろこし紅游録 (創元推理文庫)

もろこし紅游録 (創元推理文庫)



第2位:秋梨惟喬『もろこし紅游録』
 こちらは、武侠小説的ダイナミズムと探偵小説的アクロバットの融合だ。幻想譚と歴史小説の結合でもあるが、これとキャラクターの超人性は、ギミックを呼び水にしたホワイダニットに、見事に活かされる。


乾いた屍体は蛆も湧かない (講談社ノベルス)

乾いた屍体は蛆も湧かない (講談社ノベルス)



第4位:詠坂雄二『乾いた屍体は蛆も湧かない』
 探偵小説的結構が、必然的にひとつの小説としてのカタルシスを呼び、確かな感触を得させる。作者が“現在”という問題性を直視しているからだが、そのスタンス自体から倫理性が引き出されるわけではないことを十分承知している作者は、ナラティブとギミックを洗練させて、以て“物語”の説得力を獲得したのだ。




第5位:愛川晶『三題噺 示現流幽霊 神田紅梅亭寄席物帳』
 高井忍『柳生十兵衛秘剣考』、深木章子『鬼畜の家』が同点だけれども、作者の心意気というか決意にエールを送る意味合いで、本作を五番目の席に。まあ、読者としては、新作を待つだけの話なのですが、シリーズ再開と被災地の復興を祈念して。