北森鴻 浅野里沙子『邪馬台 蓮丈那智フィールドファイルIV』(新潮社)レビュー

邪馬台―蓮丈那智フィールドファイル〈4〉

邪馬台―蓮丈那智フィールドファイル〈4〉



 北森のもうひとつの絶筆『暁英 贋説・鹿鳴館』とは異なり、こちらの作品は、故人の遺志を引き継いで完成された。蓮丈那智シリーズ最初にして最後の長編、かつ冬狐堂との共演『狐闇』の続編的体裁を採っている。古代律令体制と明治近代国家の誕生時の闇史が重ねられ、稗史すら鎖される宿命を負った者たちの悲劇を、歴史ディテクティブのかたちで、説得力濃く描き出した。『暁英 贋説・鹿鳴館』も示唆するように、近代日本の蹉跌を抉る北森の方向性に、ミステリとしての可能性を大いに望みたいところだった。