江國香織『ちょうちんそで』(新潮社)レビュー

ちょうちんそで

ちょうちんそで



 居心地がよく、しかし張り詰めた空気に満たされる小説世界を、作意を感じさせずに現前させてしまう技量には、脱帽せざるを得ない。人間や事物をめぐるあらゆる関係性に対する濃密な意識が、洗練された文体を通して濾過され、私たちの知っている日常世界の影が差している部分にかすかな光を送り、独特の具象性の感触を残す。安寧と不安の両義性を演出させたら、作者の右にでるものはいないだろう。