伊与原新『磁極反転』(新潮社)レビュー

磁極反転

磁極反転



 極端なパニック小説になるかと思いきや、未曽有の状況下での、リアルな社会的再編成と、集団心理の動揺を濃やかに描いて、何だか文学領域における“理系”の意地を見せつけられて、率直に感嘆した。コケオドシ感を一掃して、なおかつこちらの現実世界と地続きの昏い欲望のかたちを描き出す作者の筆致は、寓話的印象から免れているのがマル。