藤田宜永『喝采』(早川書房)レビュー



 時代の雰囲気としては、この国が政治の季節を収束させて、成長から成熟社会への扉を開け始めた頃の、社会的(無)意識のプレステージを一段上げようとしていたニュアンスが、小説内での濃やかな描写から感得できるのは、さすが。ただ、PR文とは裏腹に、作者は読者の過剰な思い入れを往なしているようなところも見受けられるが。センチメンタルな演出は、空回りしていない。