いとうせいこう『小説禁止令に賛同する』(集英社)レビュー

小説禁止令に賛同する

小説禁止令に賛同する



 小説、という存在を、形式として捉えるのでなく、行為として捉えるとしたら。“表現”というもののサブカテゴリーとして、小説、を捉えるのだったら、それは形式でしかないだろう。小説、というものが、人間的な生の発露として、生の充溢として捉えるとすると、“表現”というカテゴライズの暴力からの魂の核の部分の逃走線として、ナラティブは定位できることになろう。この近未来ディストピア小説の賭け金は、生の流動体としてのナラティブが、収容所的権威主義体制に潜在する死への欲動を暴きだしてしまうところにあり、以て“作者”のアイデンティティー探しという方向性に収めている。