今回から過去の推協賞の短編部門候補作を読んで、個人的評価を記します。
『望郷、海の星』湊かなえ(受賞作)
主人公の母が、いつ夫の蒸発の真相を知ったかで、物語の方向性は変わるはず。物語がこうであったという必然性の説得力が欠ける。
『三階に止まる』 石持浅海
この作者らしい小品。「奇妙な味」系列の作品で、最後まで人を食った展開で愉快。探偵役は余計で、主人公夫婦に推理をひねり出させれば、滑稽な感じが増したはず。
『言うな地蔵』 大門剛明
冒頭で、サプライズエンディングのキモとなる部分が完全に伏せられて、アンフェア感がまさる。まあサプライズで俗物性が反転する構成はツボなのだが。
『足塚不二雄『UTOPIA 最後の世界大戦』(鶴書房)』 三上延
稀覯本の出現をめぐるロジックの反転が、それまでの不可解な出来事のすべてを、一気に因果づけてしまう手腕は見事。主人公の母が表象する悪意のかたちにも、生々しい感触がある。
『この手500万』 両角長彦
これも、オチにつながるキモの部分が、冒頭で完全に伏せられているタイプで、うまく騙されたというカタルシスは薄い。もっとファース味があってよかった感じ。
【採点】『三階に止まる』『足塚不二雄『UTOPIA 最後の世界大戦』(鶴書房)』に〇、『望郷、海の星』に△、という評価。
http://mystery.or.jp/prize/detail/10651