二階堂黎人・編『新・本格推理06 不完全殺人事件』(光文社文庫)レビュー



 HMC編の『本格ミステリ』とともに、恒例となった“文庫の雑誌”シリーズも六集目。プロvsアマの対決という以前に、やはり指摘したいことがある。――この企画の、今回の応募総数は、百編に満たなかったという。他誌の公募新人賞のじつに1/3〜1/6で、しかもそのうち8編が採用されているのだから、“陽の目”をみるにあたり設けられているハードルは、かなり低い、もしくは緩いはず――数値だけ見てみれば。しかし、実際読んでみると、十二分にクオリティの高さが担保されているのがわかる。「プロを凌駕する出来映え」の宣伝文句に、全く偽りはない。――となれば、気になるのは、「新人賞」の方だ。何百編のなかの頂点に立つ作品が、『新・本格推理』採用作品より、“本格”であるかないかというパースペクティヴを超えて、明らかに、駄作とは言わないまでも“凡庸”な作品であったときには、当該「新人賞」に、何か根本的な制度的欠陥があるといわざるを得ない。…………このことは、先般久しぶりに二作同時受賞となった乱歩賞が、「広義のミステリー」と謳いながら、実質的に“情報小説”の文学賞に変質した、その遠因に当たるような気がする(もう、『大いなる幻影』『枯草の根』『殺意の演奏』とんで『ぼくらの時代』のような作品が最終候補にあがることはないでしょうね)。――まあ、とりあえずは、「新人賞」の方も、『新・本格推理』のように最終候補に20編前後あげて、毎回5編ぐらい受賞作出せば、状況は改善されるかも。
 それにしても、園田修一郎氏はもう本格デビューしてもいいんじゃないかなあ。選者イチオシの稗苗仁之氏の『蛍の腕輪』は、作中作の民話における情景描写の清冽さ(結びの段落における叙述のリリシズムを見よ!)が、島田荘司の「本格ミステリー」論を核心で把握していることを示して余りある。