秋月涼介『消えた探偵』(講談社ノベルズ)レビュー

本日のエピグラフ

 (前略)きみにだけしか体験できない妄想――すなわち、ある種の神経症と断定する方が世界は安定する。(P163より)

消えた探偵 (講談社ノベルス)

消えた探偵 (講談社ノベルス)


 
ミステリアス8 
クロバット8 
サスペンス9 
アレゴリカル8 
インプレッション8 
トータル41  


 収拾つきそうもないような話を、ギリギリのところで、巧くロジカルに収斂させた。物語の展開に拡がりは見られないけれども、各キャラクターの“症状”がそれぞれひとつの“世界観”として提示されているので、そのそれぞれが軋轢を起こす様が、面白い。小説は三人称ではなく、「異邦人」の一人称で語られるので、読者はかろうじて「症例蒐集家」と立場を同じくすることから逃れられる。…………「探偵」が<読者>と同致されるのならば、逆に、<読者>という存在が「探偵」の存在を担保していると言えるのかもしれない。<読者>がいる限り「探偵」は死なない。むしろ、<読者>の“視線”は、探偵小説空間内部に、「探偵」を自在に転移させるのだろう。