篠田真由美『螺鈿の小箱』(東京創元社)レビュー

螺鈿の小箱

螺鈿の小箱


 
ミステリアス8 
クロバット8 
サスペンス8 
アレゴリカル8 
インプレッション7 
トータル39  


 あとがきにもあるように、植民地主義的な“視線”にあえて内在する意思=意志が、各編を貫く通奏低音である。男/女、支配/被支配、被虐/加虐、正気/狂気、そして闇と光…………これらの二項対立が、物語空間内の被造形物の、個々の有する両義性へと変容する。これは、旧“宗主”国でありながらオリエンタリズムに投射された文化圏である「日本」の両義性に対応する。デュラスのオマージュ「象牙の愛人(ラ・マン)」は、この文脈があるからこそ、必然性を帯びるのだ。――「植民地は女である」(法月綸太郎)のなら、「日本」は? という問いを喚起せずにおかない「双(ふた)つ蝶」、“純和風密室”の変奏である「暗い日曜日」等、佳品七編。赤江瀑皆川博子服部まゆみ等の先達もさることながら、やはり河野多恵子の作風との差異線を探ってみたくなる。