森見登美彦『きつねのはなし』(新潮社)レビュー

きつねのはなし

きつねのはなし



 
 流麗かつ恬淡とした筆致で、異界・他界との水際を描きとめる。“交換”が介在する表題作よりも、“暴力”が界面を掻き乱す「魔」のほうが個人的な好み。「果実の中の龍」は語りの水位に虚実の淡いを滲ませ、「水神」では近代史に氾濫=叛乱する存在をして、界壁を決壊させる。