恩田陸『中庭の出来事』(新潮社)レビュー

本日のエピグラフ

 またどこかの中庭で、どこかの劇場でお会いいたしましょう。/(深くお辞儀し、こっそりと)/どう? こんなものでいいかしら?(P381より)

中庭の出来事

中庭の出来事


 
ミステリアス9 
クロバット10 
サスペンス8 
アレゴリカル9 
インプレッション8 
トータル44  


 恩田陸のメタミステリが他の作家のそれより一歩抜きん出ているのは、その「ミステリ」を書く側の“自意識”の有様が、メタ的技法が穿つべき対象として必然となっている点だろう。傑作『ユージニア』は、一編の「ミステリ」を物する<作者>の痕跡をさらに追走する構成が、“ミステリアス”なるものの在処やその帰趨を剔抉していた。本作は作中作ならぬ作中の構図を基調として物語空間を重畳化させているが、“演技”の虚実の両義性が入れ子構造の内‐外の転換装置になるという結構を実現させる作者の手付きに酔いしれつつも、“騙り”のベクトルが錯綜する様、個々の奸計の送り先が何者に向けられているのか、というレベルで読者を散々誑かす。「中庭」というのは<現実界>のことなのかも。…………ただ作者には、『象と耳鳴り』のような<本格>ストレートの作風にもいちど回帰してほしいなあ。