島田荘司『島田荘司のミステリー教室』(南雲堂)レビュー

島田荘司のミステリー教室 (SSKノベルス)

島田荘司のミステリー教室 (SSKノベルス)



 
 基本的に自身のウェブサイトで公開された文章を纏めたもの。だけれども、一番興味あったのは、創作作法よりも、高齢者自殺多発の真相についての御大の推理ですね。ははん、なるほど…………ただ、高齢者間の経済格差は深刻で、若年層における格差下層には社会的流動性に耐えられるだけの力はあるけれども、高齢者層のそれには、社会的排除がダイレクトに生‐権力からの放逐に直結してしまう、という事情は閑却できないだろう。…………と、それはともかく、小説を洗練させる原基として「詩」の重要性を言挙げするのは、圧倒的に正しい。島田における“ミステリー”とは、象徴的秩序の脱構築の過程そのものだと思うけれども、そこに巽昌章のいう「悪夢は現実、現実は悪夢」、<現実>としての<ふるさと>が不気味に貌を見せる――それは“トリック”そのもののことであるし、その瞬間「無意味なままに出来事が増殖し、連鎖してゆく」のを眺めるしかない磁界に<読者>は囚われる、ということでもある。…………私にとって最大の不可思議は、マーロウはホームズの後継と嘯くほどの“リベラリスト”たる作者に、なんでこんな、ある意味グロテクスな才覚が芽生えたのだろう、ということだ。巽でなくともゾッとしなくもない。…………だから、『犬坊里美の冒険』は、なんやかんやいっても、いかにもこの人らしい作品だなあ、と