柴崎友香『また会う日まで』(河出書房新社)レビュー

また会う日まで

また会う日まで


 
何気なくつづく描写のうちに、微細な亀裂がはいる。凪子のところ。「泣くんじゃないか、と急に思った。でも凪子は笑ったままで、風で揺れた髪をうしろへ流した」。おそらく、この“語り手”は、主人公としての役割を一応果たしながら、ナラティヴな境地では、むしろ“亡霊”として機能しているのではないか。主人公の語り口(間合いの取り方の絶妙さ!)は、その外側に、また別の語り口が響くのを予感させる。