北村薫『玻璃の天』(文藝春秋)レビュー

玻璃の天

玻璃の天


 
ミステリアス8 
クロバット8 
サスペンス7 
アレゴリカル8 
インプレッション8 
トータル39  


 “大義”と“私情”(=“私怨”)の拮抗がミステリーの源泉となる。“大義”を吹く俗物が、「幻の橋」と表題作で、“私情”(=“私怨”)に裁かれることになるが、方向性は逆である。しかし、根本的には“倫理”の優位を、お互いがお互いに対して主張できないのが、“私情”のそれたる所以だ。“私情”に貴賤はないのである。このことが、逆説的に論理に“倫理”からの切断性をもたらすかもしれず、“私情”が“大義”へと変容せず、その個別的な核の部分として、その者の存在をささえるやもしれないのだが。