近藤史恵『ふたつめの月』(文藝春秋)レビュー

ふたつめの月

ふたつめの月




 
 『賢者はベンチで思索する』の続編。だんだんと、若竹七海っぽくなってきているような。ミステリ的な結構は、より心理的な穿鑿に傾斜している。“日常の謎”+成長小説という定石をふまえているようで、それから逸脱しているのは、試行錯誤を経ても、それに見合った果実が得られるかという不安が、物語の基底にある点にあるのではないか。探偵役の老人が置かれている境遇が、陶冶された人格におけるそれとは、決定的に違っている点が、物語に苦い味わいを残すが、作者の落ち着いた筆致によって、、凝る関係性のありようを描きつつ、“社会”に対する格率のありかたが示される。