中村文則『最後の命』(講談社)レビュー

最後の命

最後の命



 
性的なるものが、実存の基底を構成するオーソドックスな手法を深化させるのに、作者はふたつのバイアスを用意した。それが、“罪と罰”という問題意識に還流してくる。無骨な小説がある種のスリルを感じさせるのは“時代”のせいなのだろうが、現在においてドストエフスキーの場所で安住するわけにもいかないだろう。私見では、貫井徳郎は“犯罪小説”の意識において、一歩も二歩も先んじている(高村薫よりも、ね)。作者により一層の奮起を期待。