本日のエピグラフ
もう勝つことは怖くない。ぼくの勝利はぼくだけのものではない。その尊さを僕は知っている。(P245より)
- 作者: 近藤史恵
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/08
- メディア: 単行本
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ミステリアス | 8 |
アクロバット | 8 |
サスペンス | 8 |
アレゴリカル | 9 |
インプレッション | 9 |
トータル | 42 |
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作者の新境地だけれども、むしろ優れた心理サスペンスの書き手が、その特質を十全に発揮して、特殊な価値観が醸成されている一競技のアスリートの内的世界の葛藤と逡巡を描き出したものとして、絶賛したい。即ち、単線的なビルドゥングスロマンではないということで、それはタイトルがまざまざと表象していることだ。エンタメ業界はいまスポーツ小説が大流行で、これはあきらかにネオリベ下のハイパー・メリトクラシーの影響があるわけで、作品自体にというより、その無自覚な賞賛に鼻白むことこの上ないけれども、本作はそれらとは一線を画す。読了したあとに、再び冒頭に置かれたモノローグに接すると、物語の陰影がいや増す。類書のなかでも、これほどある種の静謐さに支配されたものもないだろう。