有栖川有栖『女王国の城』(東京創元社)レビュー

本日のエピグラフ

 世界のすべては今の私につながっている、という幼稚で誇大な妄想。本格ミステリは、それと戯れてみせる(P419より)

女王国の城 (創元クライム・クラブ)

女王国の城 (創元クライム・クラブ)


 
ミステリアス9 
クロバット10 
サスペンス10 
アレゴリカル9 
インプレッション10 
トータル48  


 前作『双頭の悪魔』から、「失われた十年」を大幅に飛び越して上梓された続篇は、まさしく「失われた十年」前夜の不穏さを孕む小説となった。といっても、この“不穏さ”は、「失われた十年」以後の現在からの、時代に対する剔抉ゆえに見出されたものであるのだけれども。…………作者の意識としては、<本格>の精神を、消費社会的シニシズムに、それをさらにアイロニーとして経由させることによって、“セカイ”な物語精神と決定的な差異線をひきたいようだ。さらに、殊に<本格>においては、「失われた十年」の間に物された作品のなかでは、“世界”そのものをミステリのフォーマットで問うようなものが現れて、そしてその方向性も混沌としていくのだけれども、そのようなことを考えたときに、本作で立ち現れる“世界”は、ガジェットの集積、純粋ガジェットとでも呼びたくなるような、そんな雰囲気を醸成している。これは、作者の企図したものであるはずだ。物語に伏在するもうひとつの、しかし決定的なストーリーに思いを致すのならば、なおのこと。――そして、江神シリーズにおいては、火村シリーズと問題意識において、また決定的な差異があることも、読者にとって明確になったと思う。