本日のエピグラフ
世界のすべては今の私につながっている、という幼稚で誇大な妄想。本格ミステリは、それと戯れてみせる(P419より)
- 作者: 有栖川有栖
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2007/09
- メディア: 単行本
- 購入: 4人 クリック: 60回
- この商品を含むブログ (247件) を見る
ミステリアス | 9 |
アクロバット | 10 |
サスペンス | 10 |
アレゴリカル | 9 |
インプレッション | 10 |
トータル | 48 |
---|
前作『双頭の悪魔』から、「失われた十年」を大幅に飛び越して上梓された続篇は、まさしく「失われた十年」前夜の不穏さを孕む小説となった。といっても、この“不穏さ”は、「失われた十年」以後の現在からの、時代に対する剔抉ゆえに見出されたものであるのだけれども。…………作者の意識としては、<本格>の精神を、消費社会的シニシズムに、それをさらにアイロニーとして経由させることによって、“セカイ”な物語精神と決定的な差異線をひきたいようだ。さらに、殊に<本格>においては、「失われた十年」の間に物された作品のなかでは、“世界”そのものをミステリのフォーマットで問うようなものが現れて、そしてその方向性も混沌としていくのだけれども、そのようなことを考えたときに、本作で立ち現れる“世界”は、ガジェットの集積、純粋ガジェットとでも呼びたくなるような、そんな雰囲気を醸成している。これは、作者の企図したものであるはずだ。物語に伏在するもうひとつの、しかし決定的なストーリーに思いを致すのならば、なおのこと。――そして、江神シリーズにおいては、火村シリーズと問題意識において、また決定的な差異があることも、読者にとって明確になったと思う。