門井慶喜『人形の部屋』(東京創元社)レビュー

本日のエピグラフ

 十八世紀後半のイギリスにはじまるこの工業化、都市化への激しい傾倒は、合理的思考に決定的な勝利を与え、事実上、アレゴリーの息の根をとめた。アレゴリーは死んだのだ。(「お花当番」P127より)

人形の部屋 (ミステリ・フロンティア)

人形の部屋 (ミステリ・フロンティア)


 
ミステリアス8 
クロバット8 
サスペンス7 
アレゴリカル9 
インプレッション8 
トータル40  


 ガジェット、表象、記号、それらに“歴史”が回帰してくる。神と人の回路が切断され、アレゴリーが死んだ後でも、時は流れる。対象に蓄積された時間から、“物語=歴史”を汲み出してくるのが、衒学者の本質なのだろう。しかし、たとえばベンヤミンは“都市”の中から、寓意を読み取らんとしたアレゴリカーだった。だから、<近代>に入り、アレゴリーは額縁から解き放たれた、と見るべきではないか。無論、作者は「アレゴリーは死んだ」という言明を信用しているわけではないだろう。“衒学者”もまた“都市”の住人として、アレゴリカーの対象となる。作者は“日常の謎”を“衒学者”自身の事件として構成し、現在的な家族の肖像を浮き上がらせる。