愛川晶『芝浜謎噺』(原書房)レビュー

本日のエピグラフ

 二人の名人は、夜明けの芝の浜で、一体、何を見たというのだろうか? (「芝浜謎噺」P198より)

芝浜謎噺―神田紅梅亭寄席物帳 (ミステリー・リーグ)

芝浜謎噺―神田紅梅亭寄席物帳 (ミステリー・リーグ)


 
ミステリアス
クロバット10
サスペンス
アレゴリカル10
インプレッション10
トータル47


 ナラティブ、テクスト、そしてパフォーマンス。落語における各々の次元においての“職人”の意識が、この物語空間に、芳醇なカオスを生み出す。即ち是、ミステリー也と。表題作の、「芝浜」の新解釈と縒り合せられる事件が、交錯する瞬間の見事さは特筆もの。これを挟み込む「野ざらし死体遺棄事件」と「試酒試」は、人情噺を、ミステリーの要素が、より陰影深く縁取るのに貢献している。“趣向”的意識、ここに極まれり、である。