安富歩『生きるための経済学』(NHKブックス)レビュー

生きるための経済学 〈選択の自由〉からの脱却 (NHKブックス)

生きるための経済学 〈選択の自由〉からの脱却 (NHKブックス)


 
 反経済学の極めつき。経済学批判としては、生産の三要素のうちの労働力と土地、そして貨幣の商品化(商取引)の限界を問うというのがオーソドックスですが、本書は、「選択の自由」に照準を合わせたもの。経済学という擬制の基盤となるところを、もう一度おさらいしてみるのもさることながら、“自由”という概念そのものをも棚浚えする。ポラニーによる近代自由主義批判=懐疑主義批判とフロムの『自由からの逃走』を重ね合わせて、「利己心」=「虚栄心」にささえられる「社会的自我」の空虚さを剔抉するが、本書で解説されたポラニーの文脈からすると、メタ・ゲーム的思考は、やっぱり現代のニヒリズムなのだろうな、と。著者は「積極的自由」にバーリンとは違うフロム的な意味合いを与えているけれども、自我の形成に“他者”が召喚される必然を定式化することであるならば、是認できる。呉智英せんせいは、どう評価されるのかしらん。