本日のエピグラフ
グリーンスパンは世界最大の株式バブル後の苦境にあえぐアメリカを、世界最大の不動産バブルで救済した。この2つのバブルの組み合わせは、アメリカ(そして世界)がそれまで目にしたことのなかった規模の投機熱、そして負債増大の代名詞になった。(P220より)
- 作者: ウィリアム・A・フレッケンシュタイン,フレデリック・シーハン,北村慶,鈴木南日子
- 出版社/メーカー: エクスナレッジ
- 発売日: 2008/03/28
- メディア: 単行本
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伊藤博敏『金融偽装』は、ネオリベ経済下の魑魅魍魎を描いたルポルタージュで、読み応えは十二分にあるのだが、いかんせん、文章が生硬で、取っつきがいいとは、必ずしもいえない。この本の冒頭は、サブプライムショックに帰結したアメリカ経済、グリーンスパン時代の金融ファナティシズムを概観しているが、このグリーンスパンがFRB議長だった90年代、そしてゼロ年代半ばまで、アメリカ経済の経験した異常な極大バブル(それも二つも!)の実態を活写したのが本書『グリーンスパンの正体』である。――そう、「失われた十年」中、私たちはあの人たちのご高説を散々拝聴させられたが、その間、あの人たちは、私たちが経験したのとは比べ物にならないくらいの規模のバブルで、踊り狂っていたのだった。日本のバブル期の日経平均における株価収益率の(過去五年間の)増加率は230%、対して、ITバブル期のナスダック指数のそれは、907%。新世紀手前でITバブルは崩壊し、この“痛み”は何で贖われたかといえば、実に、「住宅のATM化」というもうひとつのバブルであった…………日本の「土地神話」と同じように、アメリカもまた不動産が値上がりし続けるという前提で、ミドルクラスを中心に、自宅を担保にカネを借りまくり(そして、ローンの借り換えを続ければ、金利が安くなり続ける)、不動産関連の市場は、ミレニアム最初期の極大バブルになった。それはあたかも、マイホームが「パワーアップしたクレジットカード」と錯覚されたかのようであった。――無論、このウラには、ずさんな融資が横行し、さらに、これらのローン債権を証券化して、世界中にばら撒いた。サブプライム問題は、この証券化によって債権保有会社がリスクを負わない技術が洗練されたことが、さらに融資の無軌道化に拍車をかけたというのが原因の主たるものだが、背景には「住宅のATM化」といった事態がある。そして、これらの二つの極大バブルを招いたのが、ほかでもない、アラン・グリーンスパンの非常識な金融緩和政策だった、というのが著者の主張だ。即ち、「グリーンスパンの世界では、低インフレは歓迎されない。彼はインフレ率を下げるよりも、上げるように努めていた」。…………90年代のアメリカがデフレだったらいざ知らず、実際のアメリカのインフレ率は統計上のマジックによって、ディスインフレ状態へと粉飾されていた。*1これが、いわゆる「グリーンスパン・プット」のお膳立てをしたのだった。*2…………かくして、悪夢の種子は蒔かれる。彼は、ITバブルのときは、「生産性」と「テクノロジー」の“向上”というコトバで、バブルを承認していたし、不動産バブルのときは、この「住宅のATM化」という金融テクノロジーを絶賛していた。――その果てに、いかなる果実が手に入ったか。これは、第7章で次々と示される各種統計グラフが、何よりも雄弁に物語っている。とりわけ、図15「GDPと比較した家計の借金」と図16「膨大な借入、わずかな成長」で示されたグラフが、現在のアメリカ経済の真の姿である。後任のベン・バーナンキは、もうただひたすらジャブジャブ、マネーを供給するしかないだろう。ということは、日本は、いやでも円高(圧力)に直面せざるを得なくなる、が。…………本書は、いかにも向こうのコラムニストの文章の翻訳といった体で、とても取っつきやすい。また巻末解説も、中立な立場から、本文ではわかりにくい「住宅のATM化」のからくりを、あらためて説明するなどして、好感のもてるもので、現今の世界経済の波乱の根底にあるものを、十全に把握するためにも、強くお奨めしたい、経済書である。