田中啓文『辛い飴 永見緋太郎の事件簿』(東京創元社)レビュー

本日のエピグラフ

 「(…)でたらめ、でたらめ、でたらめだから楽しいんだ。ただ……音楽にさえなってりゃそれでいいんだ。でたらめ万歳だ」(「甘い土」P173より)


 
ミステリアス
クロバット
サスペンス
アレゴリカル
インプレッション10
トータル44


 プレイの最中のテンションが上がっている時の描写がうまい、というか楽しいです。こういうのが小説のチカラ、だよね。ウェットなところとクールなところの緩急の付け方、その匙加減が絶妙です。特に表題作、「苦い水」「酸っぱい酒」は、ミステリの結構がエモーショナルな効果にダイレクトに寄与しているけれども、怪作「甘い土」においても、冗談に情動が勝った感がある。