古川日出男『聖家族』(集英社)レビュー

聖家族

聖家族



 近世近代現代現在。空間(地理)的、時間(系譜)的、ふたつの次元を交錯・攪乱させて、ありえない/ありうべき“歴史”が紡がれる。「流亡」のうちに描かれるある家系。彼らが彼ら自身を主要素として遭遇する“出来事”。稗史とは、これほどまでに断片的に語られなければならないものかということを、改めて思い知る。そしてそれは、正史に対抗する聖史となるべく、ひとつの魂を屠ったあと、また新たなる魂を産み出し、その諸々の魂の軌跡を集積させて、集合的な“記憶”に登録させていくのだろう。