桜庭一樹『ファミリー・ポートレイト』(講談社)レビュー

ファミリーポートレイト

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 ビルドゥングスロマンとしては、むしろまっとうな部類に入るのかも。親殺しが不可能であるってことは、アイデンティティーが上手く確立できないのが必然である、ということかもしれない。“作者”という特権的地位は、果たしてこのことの欺瞞装置として、有用なのかどうか。モノローグに彩られたような文体は、語り手自身の存在根拠を追求しようとする切実さが、そのある種の生々しさを担保しているように思われる。