石塚健司『「特捜」崩壊 墜ちた最強捜査機関』(講談社)レビュー

「特捜」崩壊 墜ちた最強捜査機関

「特捜」崩壊 墜ちた最強捜査機関



 「特捜」から「捜査の職人」が消えた――きっかけは、検察内部の人事改革で、法務省出身者(検事総長待遇)との人事上の軋轢をなくすため、特捜部に法務官僚が着任することが常態化した反面、検察生え抜きのいわゆる「捜査の職人」を育成するシステムが崩壊したことにある。結果、特捜部副部長ポストは法務官僚の経歴の箔付けに堕し、国税局などの告発機関が被疑者の自供をとらなければ、告発を受理せず、または捜査が途中で放置されるケースが目立ってきた、という。さらに問題なのは、「職人」が消えた特捜が、誤った情報をもとに独自の筋書きを描き、結果的にその筋書きに無理矢理当てはめた強引な捜査が行われるということで、今から二年前のいわゆる防衛汚職事件で、防衛利権フィクサーと目された男が、最終的に政界汚職ではなく、個人的な脱税事件の容疑で特捜に検挙されるに至る一連のプロセスは、特捜の劣化を端的に示すものであった。たまたまこの男と親しくしていた大手紙社会部記者が、被疑者側から特捜の泥縄捜査の実態を描くが、この本の前段には、十年前の旧大蔵・日銀接待汚職事件が扱われている。この“事件”は、証券・銀行側の接待行為を「賄賂」と認定する、汚職事件において画期をなすものだったが、逮捕された旧大蔵官僚の出席した接待のうち数回、あろうことか、当時東京地検から旧大蔵省に出向していた検事も同席していたのだった。地検はこのことを東京高検・最高検かおろか法務大臣にも報告せず握りつぶしたが、紆余曲折を経て、標的にされた官僚が逮捕されたときには、検事が同席した接待に関しては、公訴時効が成立していたのだった。――特捜部が「世論」を追い風にするときは、必然的にマスメディアを駆使するわけだが、そこで徒に「世論」に火をつけた特捜が、今度はその焔に煽られることになる。ここに、“大衆”を思い通りに操作できると思いこんでいるエリートの喜劇があからさまにされている、と思わなくもないが、さて…………