佐々木譲『廃墟に乞う』(文藝春秋)レビュー

廃墟に乞う

廃墟に乞う



 トラウマを抱えた刑事の復権の物語、という鋳型があるが、小説を面白くしているのは、様々な相貌を見せる北海道という地から、作者がどういう事件を切りだしているか、である。共同体的なトラブルから都市型犯罪、そして家族内の相克など、大都会の抽象的な事件カタログとは一線を画す、土地の記憶とその現況が滲んだ悲劇であるが、それら事件たちが、主人公の陰影を必然的に浮かび上がらせる手腕は、大ベテランの力量を示して余りあるもの。