篠田節子『薄暮』(日本経済新聞出版社)レビュー

薄暮

薄暮



 芸術家の来歴をめぐる小説が、芸術家をめぐるエゴイズムを剔出する展開になるのは、作者の問題意識が、逆に通俗的でないことを示す。アウラを恣にせんとする欲望の様々を、ミステリアスな演出をも含めて描き出す。いちばん怖いのは、芸術に対する執着と芸術家に対する執着の境界がなくなっていくことか。