翔田寛『祖国なき忠誠』(講談社)レビュー

祖国なき忠誠

祖国なき忠誠


 
 戦争が終わり、“アメリカの影”を背負ったふたりの日系二世。狩る者と逃げる者の魂の軌跡は、敗戦直後の半無政府的状態の日本のミクロコスモスを背景に、思いもかけぬ結末を迎える。国家に翻弄された人々の“私情”が、物語の原動力とカタルシスに資するというのは、普遍的な手法だけれども、この“私情”=秘められた感情という装置を、作者は効果的に扱って、持ち重りのあるドラマに仕上げた。