菅原琢『世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか』 (光文社新書)レビュー

世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか (光文社新書)

世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか (光文社新書)



 同じ新書で出ている吉田徹『二大政党制批判論』は、言わんとすることは分かるだけれども、なんというか危機への煽り方がヘタです。例えば、二大政党制は政治の「二極化」を招くと言っているのだけれども、それでは政権交代前はなんだったのか、ということである。本書『世論の曲解』のなかでは、2007年参院選の総括として、「これまでの自民党は、野党の分立に助けられ、1人区を、そして参院選を有利に戦ってきたわけである。それがもはや成り立たなくなったことを示している」と述べているが、一極化より二極化のほうがいいに決まっているだろう。むしろ、本書第7章のタイトル「「振り子」は戻らない」とあるように、まだ一極化傾向を脱し切れていないところに、困難があるのではないか、と思ってしまう。――本書は、「世論」調査の結果と、選挙結果の詳細な分析をもとに、自民党の大敗の原因である「世論の曲解」を糾していく。「データの不適切な読解が政局を動かしている現状は好ましくない」と、章間に挿入されたコラムで著者は警鐘を鳴らすが、自民党が「世論の曲解」の隘路に陥ったのは、メディアの政治記者政治学者・評論家たちが「世論の曲解」の愚行を犯したからであり、また一部のラウド・マイノリティの「政治運動」に自民党もその御用記者たちも見事にのせられたからだった。著者が描く見取り図は、反小泉の反動路線を取る安倍政権以降、都市部の改革志向の有権者が一時の自民党支持を止め、一方野党側は選挙協力によって、07年参院選、09年衆院選を大勝で制したということで、それまでの自民党にゲタを履かせていた「勝ち馬投票」の効果もなくなっていく状況を打開するには、「民主党に逃げ始めた農村の「与党」支持票と、小泉を支持していたような都市の票を、一緒に、一挙に獲得する必要がある」。しかし、09年衆院選で生き残ったのは、「民主党が手加減をしてくれたおかげで、農村部の長老政治家だらけ」という現状である。アマゾンのレビューにもあるけれども、まさに小沢一郎の選挙戦略が透けて見えてくるのだ。であるから、10年参院選の結果如何では、民主党政権か、公明党までを視野に入れた民主党中心の連立政権か、それでも民・自大連立の可能性はいちばん低いということになる。ともあれ、計量政治学の実践のダイナミズムを感得させてくれるということだけでなく、期せずしてメディアリテラシーの一視角をも提供してくれているということでも、必読。