ジョセフ・E・スティグリッツ 『フリーフォール  グローバル経済はどこまで落ちるのか』(徳間書店)レビュー

フリーフォール グローバル経済はどこまで落ちるのか

フリーフォール グローバル経済はどこまで落ちるのか



 スティグリッツせんせい怒りのリアルバウト、VSウォール街救済金融政策。こちらの方では、オバマ政権の尻に火がついた状況が断片的にしか伝わっていないけれども、今年初頭に原書が刊行された本書をひもとけば、ブッシュ・オバマ政権の金融機関救済策が、ウォール街に対するビッグボーナスにすぎないことが如実にあからさまにされ、アメリカ国民による顰蹙の根底にあるのものがわかる。税金による不良資産の実質言い値による買取と、納税者たちを物言わぬ株主に留め置く資本注入。そして銀行は高額の配当とボーナスを払い続け、貸し渋りを解消させなかった。このようなことをやってれば、保守派の中産階級国民皆保険制度に抵抗を示すはずである。ポールソン、ガイトナーのふたりの財務長官は、それぞれGS、シティバンク出身で、ガチの“代理人”。FRB議長のバーナンキの下で、低金利のマネーがジャブジャブ流れたのはいいが、銀行自体がそのことで、今までよりもお手軽にマネーゲームに興じる環境が整ってしまったので、企業の設備投資への融資に魅力を感じなくなってしまった。スティグリッツは、このような救済策を、モラル・ハザードと、即ちどうせ救済してくれるなら高リスクをバンバン取りに行くぜという歪んだインセンティブを与えるものとして、厳しく非難している。本書前半は、アメリカ金融失政と、借金バブルの下での「略奪」(=不平等の拡大、消費をする層から消費をしない層への所得の移転)の諸相を詳らかにして、後半では世界同時不況を解決するための世界準備制度への言及や、経済学における保守派批判などが中心になるが、デフレへの言及はまださらりとしてしかやられてなくて、そちらの方の危機感はこれからということか。