詠坂雄二『乾いた屍体は蛆も湧かない』(講談社ノベルス)レビュー

本日のエピグラフ

 ゾンビはどうなんだろう。/腐りつつあるなら温かいような気もする。温かいなら、なおさら僕と重なるところがあるわけだ。(…)(p.41)

乾いた屍体は蛆も湧かない (講談社ノベルス)

乾いた屍体は蛆も湧かない (講談社ノベルス)



ミステリアス
クロバット
サスペンス
アレゴリカル
インプレッション10
トータル46


 昨年の某日常の謎系作品を、私は一定の評価を前提のうえで批判したけれども、本作はその某作に欠けているものが、きっちりとある。現在という時代における切実な逆説、そのうえで探り当てられるべき倫理性が、探偵小説の形式に則り、見事に表現されている。作者のシニカルさが、物語世界との絶妙な距離感をもたらし、以て小説を成熟させた。この小説の前では、似たような“セカイ”を、文体を駆使???して描いている“純文学”など、児戯に等しい