桐野夏生『ポリティコン 上・下』(文藝春秋)レビュー

ポリティコン 上

ポリティコン 上



ポリティコン 下

ポリティコン 下



 出版社のPR文を読むと、何かダークで物騒なクライマックスを迎えるように思われるが、そうではなく、ひとりの男の欲望の蹉跌を精緻に摘み取り、さらに彼の“他者”たる女の故郷なき遍歴を交差させて、新天地を求めざるをえない魂の有様を厚みをもって描いた。文学的思わせぶりとは裏腹に、各登場人物たちのリアリティとコミューンのディテールで読ませ、観念的に空回りしていないのが魅力で、“小説”家としての地力を感じさせる。