高田純『福島 嘘と真実─東日本放射線衛生調査からの報告』(医療科学社)レビュー

福島 嘘と真実―東日本放射線衛生調査からの報告 (高田純の放射線防護学入門シリーズ)

福島 嘘と真実―東日本放射線衛生調査からの報告 (高田純の放射線防護学入門シリーズ)



 4月9日、10日と2日間にわたり20キロメートル圏内に突入し、放射線環境を調査しながら、徐々に福島第一原発敷地境界に接近していった。(…)
 そして核緊急事態が続いている福島第一原発の敷地境界の調査を開始した。福島第一原発の西門や、他のゲートやフェンスに沿って測定したところ、(…)最大でも毎時0.059ミリシーベルトであった。この値は、チェルノブイリの緊急事態時の値の1000分の1以下である。(p.30)

 核分裂反応が停止した炉心内の放射能の総量は、時間の経過とともに低下する。その法則は、7倍の時間で10分の1に低下する。例えば、最初の1分後に比べ、30時間後には炉心の全放射能はおよそ1万分の1に減衰する。
 福島第一原発の炉心が冷却できなくなり、漏れた水素が原子炉建屋内で爆発したのは、核反応停止24時間以後だったので、その間分単位の短い半減期放射能は消滅した。そのため、原子炉周辺でさえ、チェルノブイリに比べて、放射線強度は圧倒的に低かったのである。(…)(p.40)

 放射性セシウムの環境中の半減期は、30年よりも短い。それは、初期に存在するセシウム134の半減期が2年と短いばかりか、風雨などによる地域からの掃き出しがあるからである。2年目はすでに放射性ヨウ素が消滅しているので、その線量はない。さらに、外部被曝に加え、内部被曝も減衰する。(…)(p.11)

 世界の核被災地調査を続けてきた放射線防護学専攻の著者が、その経験をもとに開発したポータブルラボ、放射線計測装置一式を携え、4月9日、10日に福島第一原発周辺を測定調査したリポートである。現地の「低線量事象」という正しい実態を、しっかり確認されたい。
 福島での現地調査もやらず、遠く離れた場所から、チェルノブイリと同じだそれ以上だと騒いでいる輩は、原発専門家であろうが医者だろうが、インチキです。なのに、被曝するから除染作業は困難です、などという記事が新聞雑誌などマスメディアに出始めています。非常に危険な言説状況です。福島県民が、原発周辺の放置された家畜のように、生殺しにされようとしています。
 原発の存続・廃止というアジェンダが、イデオロギー的に、放射能危機の煽動のかたちを取るのは、唾棄すべきことです。福島第一原発に近づけなくすることで、結果的に、福島原発事故の真相隠蔽に加担することになります。