吉本隆明『吉本隆明が最後に遺した三十万字〈上巻〉「吉本隆明、自著を語る」』(ロッキングオン)レビュー



 渋谷陽一インタビューによる『SIGHT』連載の単行本化。吉本本人による吉本隆明入門だけれども、渋谷が吉本主義者共同体の周縁に近い内部の位置を堅持しているのがいい。吉本の終生のテーマだった天皇制なるものとの対決の輪郭が、くっきりと浮かび上がってくる。吉本の批評的意識は、宗教性という主題を抱えたまま、封建制、国家、左翼党派性の批判的相対化を経て、『最後の親鸞』でついに宗教の相対化にたどり着く。以後、「現在という作者」の発するメッセージの解読作業に軸足を置くが、同時に「アフリカ的段階」という世界精神の位相概念を提出した。原始宗教による“世界”成立の論理を以て多宗教間の相克を相対化する作業を期待したかった。