加藤典洋 高橋源一郎 『吉本隆明がぼくたちに遺したもの 』(岩波書店)レビュー



 高橋は詩作家としての像から、吉本思想にアプローチして、加藤は思想家としての像から、それをする。講演録と対談なので、読みやすく、充実した内容だ。特に、加藤の、「自然史的な過程」を「経済的社会構成の発展」に拡張して吉本の認識に対置したのには、共感を覚える。1970年代以降の吉本の思想的展開を、「先端と始原の二方向性」として捉えて、人類が「有限性」の時代を迎えた現在に示唆的である、とまた新たな可能性を汲み出した。高橋は、吉本のことば、「異数の世界」に託されたものを、丹念に追って、吉本思想の原基的な部分を詳らかにした。ある思想家が、なぜこのような道程を往かなければならなかったか、内・外両域から、思想の真実に迫る好著。