下村敦史『闇に香る嘘』(講談社)レビュー

闇に香る嘘

闇に香る嘘



 近年の乱歩賞受賞作の中では、出色の出来映え。有栖川有栖の評価通りの秀作だ。近年、乱歩賞をはじめとする公募新人賞の候補作に、ナショナリズムの時流にノッたと思しき作品が、多くなってきているのは、選評からも窺えるが、本作はそれらとは対極的なものなのではないか。即ち、日本社会におけるサバルタン的環境を重層的に切り取り、それがプロットに緊密に結びついていることで、サスペンスの醸成と、小説自体にも持ち重りがある。昨今は、週刊文春のベストテン上位になかなか乱歩賞作品は食い込めないが、本作はイケそう。