佐藤正午『鳩の撃退法  上・下 』(小学館)レビュー

鳩の撃退法 上

鳩の撃退法 上

鳩の撃退法 下

鳩の撃退法 下



 メタフィクション的思わせぶりを、居心地のいいものに読ませてしまうのは、大家の器量以外の何物でもない。この作者の軽妙さが、シリアスな“出来事”の余剰の部分を拾って、最後の最後でその“出来事”の内実を浮かび上がらせる、そんな結構の作品を近年書き継いでいるが、本作では、“出来事”自体を攪乱することに筆が費やされている。その“出来事”の散乱が収斂することに、全面的な肯定感のニュアンスは、あまりないように思える。ただそこには、“出来事”に対する無力感と、それに抗うための“出来事”の主観的記述という格率が、何か切実なものとして、そこに置かれている。