米澤穂信『いまさら翼といわれても』(KADOKAWA)レビュー

いまさら翼といわれても

いまさら翼といわれても



 近年の作者の芸風にナットクしていたわけではないのだったが、しかし現在の日本ミステリの領域で、読者をもっとも納得させうる作品を想像した場合、それは米澤作品に近いかたちになるのだった。どうも現在の“悪意”の産生する場所は、成熟することの困難と断念、ビルドゥングズロマンへの諦念が、露わになるところで、そういった“悪意”や、そこで行使される正義なるものの低回ぶりを、ミステリーに仕立てるのは、作者以上に過不足なくやれる人もいないのだろう。久しぶりの「古典部」シリーズは、このことを否応なく見せつけてくれた。折木、千反田のトラウマが開陳されるくだりに、この作者の凄みを感じる。