阿修羅も五徳

 
 こういう本は、いいですよね。これから向田邦子作品を繙こうとする気にさせられる。向田邦子の全盛期である70年代は、封建的遺制が色褪せて、家族の共同性が空虚化されてくるかたわら、個別的な性的意識が全面化してくる時代だった。向田は、家族の悲哀と性の哀歓を絶妙な匙加減で、一個の作品にまとめ上げた作家だった。